フルミスト「経鼻弱毒生インフルエンザワクチン」について

当クリニックでは、今年から「フルミスト」という新しいタイプのインフルエンザワクチンを開始します。このワクチンは2003年米国で承認され、20234月時点で36の国で承認されているワクチンです。国内では20233月に製造販売承認がされました。

 

このワクチンは鼻腔に噴霧するワクチンです。弱毒化された生きているウィルスを鼻腔内に点鼻して、軽くインフルエンザに罹患させて免疫を獲得させることを目的としたワクチンです。このワクチン株は低温馴化ウィルスと言って、25度前後の低温でしか効率的に増殖出来ないウィルスなので、体内に入ってもインフルエンザの様な強い全身症状を起こすことは出来ませんし、肺炎を起こすこともありません。更に体内ではインフルエンザに罹患した時と同様の免疫反応が起きます。つまり鼻咽頭の粘膜に免疫(IgA抗体)が誘導されます。従来のワクチンでは血液中にしか免疫が誘導出来ませんでした(IgG抗体)。インフルエンザは飛沫感染によって鼻咽頭から感染しますから、理論的には従来のワクチンよりも強い予防効果が期待されます。但しフルミスト接種後に、飛沫及び接触によりワクチンウィルスの伝播の可能性があります。周囲に授乳婦、妊娠している方、免疫不全の方がいる場合には、従来の不活化ワクチンが推奨されます。

 

以下に日本小児科学会・感染症対策委員会の考え方を示します。

1)従来の不活化HAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの間にインフルエンザの予防効果に対する明確な有意性は確認されていません。

2)219歳未満の方に対しては、不活化HAワクチン(従来のワクチン)または経鼻弱毒生インフルエンザワクチンのいずれかを用いたインフルエンザ予防を同等に推奨しますが、特に喘息患者には不活化インフルエンザHAワクチンを推奨します。経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは飛沫又は接触によりワクチンウィルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合には、不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨します。

3)生後6ヶ月から2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチンアレルギーを有する患者、中枢神経系の解剖学的バリア破綻がある患者に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンのみを推奨します。

 

接種の仕方----------

 左右の鼻腔内に各0.1mlを噴霧 接種は1度だけです。2回接種の必要はありません。

ワクチンの効果持続期間----------

 従来の不活化ワクチンは5ヶ月程でしたので、例年春先に流行するインフルエンザBに対応出来ないことが多々ありましたが、フルミストは1年効果が持続するとされます。

生ワクチンは不活化ワクチンと比べて効果が長く続くのが特徴です。また接種後23週程で免疫が獲得されます。

 

副反応----------

 生きたウィルスを接種しますから、軽いインフルエンザ症状が認められることもあります。

 鼻閉・鼻汁 咳 咽頭痛 鼻咽頭炎 食欲低下 下痢 腹痛 発熱 だるさ 筋肉痛 胃腸炎 蕁麻疹など

 

接種不適当者----------

1)発熱、重篤な急性疾患に罹患している方

2)本剤にアナフィラキシ-を呈したことのある方

3)免疫機能に異常のある方、及び免疫抑制をきたす治療を受けている方

   例)先天性及び後天性免疫不全症、免疫抑制剤使用中の方、中枢神経系の解剖学的バリア破綻がある方(人工内耳埋め込みを受けている方、内耳の先天性形成不全のある方、持続的な脳脊髄液の交通のある方・VPシャントをしている方)

4)妊娠している方

 

注意事項----------

1)他のワクチンとの同時接種は可能です。

  (国内の添付文書では他の生ワクチンとの同時接種は可能とされています。)

2)ゼラチン 本薬剤はゼラチンを安定剤として使用しており、ゼラチンでアナフィラキシーの既往のある方は接種しないでください。

3)卵アレルギーがある場合:卵アレルギーの程度によりますが、過去にアナフィラキシーを起こした既往がある方は接種出来ません。

4)喘息: 重症の喘息患者、接種時点で喘鳴がある方は接種できません。

5)水平伝搬:本剤の接種を受けた方は、鼻咽頭にしばらくインフルエンザウィルスが排出される可能性があります。国内の添付文書には「ワクチン接種後12週間は重症の免疫不全者との濃厚接触を避ける」と記載されています。

6)授乳婦・妊婦・妊娠の可能性のある女性

 今まで接種されていた不活化ワクチンは、問題なく接種可能ですがフルミストは妊娠している方には接種出来ません。ワクチン接種後2ヶ月間は避妊が必要です。国内の添付文書には「フルミスト接種後12週間は乳児との接触を可能な限り控えること」と記載されています。7)抗インフルエンザウィルス薬:フルミストと抗インフルエンザウィルス薬を併用した場合、ウィルスの増殖が抑制され、フルミストの効果が減弱する可能性があります。米国では過去48時間以内にタミフル、リレンザ、ラピアクタ、または過去17日間にゾフルーザを投与された場合フルミスト接種を推奨していません。

8)アスピリンなどのサリチル酸系の薬品、ボルタレン、ポンタールなどの服用患者、ライ症候群、インフルエンザ脳症との関連を示す報告があり推奨されません。

 

以上、日本小児科学会予防接種・感染対策委員会からの報告をまとめて記載しました。

参考にしてください。