手足口病と夏風邪

手足口病と夏風邪について

手足口病

   初夏から夏にかけて流行する『手足口病』は、ヘルパンギーナと並んで夏風邪の代表格で、1957年に発見された比較的新しい感染症です。日本でも1963年に報告されて以来、数年ごとに流行を繰り返しています。

   手足口病の原因ウィルスはエンテロウィルスと呼ばれ、従来はコクサッキーウィルスA16型やエンテロウィルス71型が中心でした。最近はコクサッキーA6型やA10型が多くなっています。

   発病年齢は生後6ヶ月から5歳までに多く、母親からの移行免疫のある生後6ヶ月位までは、かかりづらいとされています。まれに、大人にも感染します。

   感染経路は、咳やくしゃみによって感染する「飛沫感染」、汚染されたおもちゃなどを介して口から入り感染する「接触感染」、便の中に排泄されたウィルスが口の中に入って感染する「糞口感染」です。乳幼児が濃厚な集団生活をする保育園などで、最もかかりやすいようです。

   手足口病の特徴は、口の中の粘膜や手のひら、足の裏に数ミリの水疱性の発疹が出現します。足の甲・膝・お尻にまで及ぶこともあります。のどや歯ぐき、唇などの粘膜に出現した水疱が破れて、痛みがひどく、食事や水分が摂取できなくなることもあります。小さなお子さんの場合は、のどの痛みのせいで「いつもよりよだれが多い」「食事の飲み込みが悪い」と感じることもあります。

   従来は手足口病の1/3位でしか発熱は見られませんでしたが、最近、高熱を伴う手足口病が問題になっています。特にコクサッキーA6型やA10型による手足口病では、全身に発疹が出現したり、水ぼうそうと区別がつかないような大きな水疱を伴ったり、爪が変形したり脱落するなどの症状を認め、39度台の高熱が出やすい特徴があります。ただ発熱期間は2~3日以内が多く、諸症状も5日位で改善しますので問題なく治癒します。

   手足に発疹がない場合は、ヘルパンギーナと診断し区別しますが、この2者はほとんど同じものです。

   手足口病の水泡を伴った発疹              

手足口病
手足口病

手足口病により重症化する症例

   手足口病は大部分が軽症で終わる感染症ですが、稀に重症化することがあります。特にエンテロウィルス71型は無菌性髄膜炎、一過性にポリオ様の麻痺をきたすもの、予後の極めて悪い急速進行性の脳炎などを合併することがあり注意が必要です。

   1990年台後半から東アジアを中心に、エンテロウィルス71型による多数の脳炎が報告されるようになりました。中国では毎年数百名の患者が脳炎で死亡しており、日本でも1997年に大阪で3名が相次いで死亡しています。この脳炎の特徴は、脳幹部が障害され発症から3〜4日でショックを起こし、急激な経過で死亡することです。激しい頭痛や繰り返す嘔吐、急速に進行する意識障害、眼振(自分の意思とは関係なく眼球が規則的に揺れ動く)・構音障害(発音が正しくできない状態)・体幹が動揺し起立不能になる、などの症状が出現してきます。

   最近日本での報告はありませんが、今後も注意が必要です。

夏風邪ウイルスにより重症化する疾患

   手足口病とは関係ありませんが、稀に夏風邪ウイルスで心不全を起こし致死的になる場合や、胸痛を起こしたり、新生児が死亡する場合もあります。

   症状は発熱、咳、下痢など普通の風邪症状の後に、頻脈や徐脈、呼吸困難、チアノーゼなどが出現します。乳児であれば「ミルクが飲めない」「汗をかきやすい」「元気がない」「呼吸が速くなる」などの症状です。これは夏風邪が原因で心筋炎を発症し、心不全を併発したためです。心電図、心エコー、血液検査などが至急必要になります。

   発熱や胸痛を訴える場合には、心膜炎に注意が必要です。心膜炎は重症になると、心タンポナーデといって心不全症状を起こします。

   新生児が夏風邪にかかった時に注意が必要なのが、先ほど述べた心筋炎です。新生児では心筋炎が重症化しやすく、2/3が重症型とされています。また肝炎や髄膜炎なども合併しやすく、極めて予後不良になりますので予防がとても大切です。

エンテロウイルスD68型感染症

   1962年に米国で発見されたウィルスですが、本邦ではあまり問題になることはありませんでした。ところが2010年頃から日本でもこのウィルスが検出されるようになり、2015年秋に全国的な流行になりました。幼児や学童に咳、喘息様の呼吸器症状、呼吸困難を認め、重症化して人工呼吸器での管理が必要になることがあります。また呼吸器症状が出現してから1週間程で四肢麻痺(手足が動かなくなる)や顔面神経麻痺、発声障害(うまく話せない)などの麻痺症状を起こすことがあり、今最も注目されている夏風邪です。

夏風邪の予防

   基本的な感染経路は経口感染です。当然のことながら「患者との接触を控える」「手洗い」が基本になります。

   「おもちゃ」「コップ」「タオル」などの共有をしないようにしてください。

   手洗いは流水と石鹸でしっかり行ってください。

   オムツ交換後は排泄物を適切に処理してください。

   また夏風邪は治癒した後でも、しばらく便にウイルスが出続けますし、感染しても発病せずにウイルスを排出している場合(不顕性感染)もありますので、対策はとても難しいのが実情です。



   以上夏風邪について述べました。夏風邪ウイスルは多彩な症状をきたすのが特徴です。大部分は問題なく治癒しますが、稀に重症化する場合がありますのでご注意ください。

【引用文献】
松岡高史他:common diseaseとしてのエンテロウイルス感染症の多様性 
   小児科2016;Vol.57:No.7,;903-912

濱口陽他:エンテロウイルスに関連するまれな疾患
   小児科2016;Vol.57:No.7,;913-919  
松嵜葉子他:手足口病から重症化をきたすエンテロウイルス
   小児科2016;Vol.57:No.7,;921-927