あまり聞きなれない名前ですが、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)というウイルスをご存知でしょうか。2001年に発見されたウイルスで、喘息を伴う気管支炎や肺炎を起こすウイルスです。よくご存知のRSウイルスと類似した症状を起こす特徴があります。
→ 毎年3月から流行が始まり6月まで続きます。主に1~3歳の幼児の間で流行し、症状は「インフルエンザのような39度台の高熱が続き、RSウイルスのような喘鳴が認められる」のが特徴です。咳は1週間前後続き、熱も4日程度続きます。
→ 喘鳴(息をはく時に聞こえるヒューヒューする音)を起こす頻度が高く、重症化した場合呼吸困難となり入院が必要となります。一度感染を起こしても麻しんや水痘のような終生免疫は獲得されません。再感染を繰り返すことで次第に軽症化するとされ、この点でもRSウイルスとよく似ています。
→ 細菌感染の合併 4~5日以上熱が続く場合には細菌感染症の合併を考慮する必要があり、細菌性の肺炎や中耳炎が起きている可能性が高くなりますので、抗菌薬が必要となります。
→ 呼吸困難 喘鳴がひどくなるとまず呼吸が早くなります。1歳未満で呼吸数が50回/分、1~5歳未満では40回/分を目安にしてください。さらに呼吸状態が悪くなると、鼻翼呼吸(息を吸うたびに鼻の穴が広がる)や肩呼吸(肩の上下運動を伴った呼吸)の状態になってきますから、お子さんの呼吸には注意してください。
→ 中耳炎 RSウイルスが中耳炎を起こしやすいのは有名ですが、ヒトメタニューモウイルスでも15~20%中耳炎を合併します。中耳炎は解熱して咳などの症状が改善してきた頃に起きやすい印象です。再発熱し、機嫌が悪くなってきたら中耳炎に注意してください。
→ 気管支喘息のお子さんは喘息発作を起こしやすいという報告があり、特に注意が必要です。
→ 迅速診断キットで診断します。
→ ウイルス感染症であり特別な治療方法はありませんが、重症度に応じて喘鳴が強い時には喘息で使用するロイコトリエン拮抗薬(キプレスやオノンなど)、気管支拡張薬などが選択肢になるかもしれません。ステロイド吸入に関しても有効性を指摘する報告があります。
→ 咳やくしゃみによってウイルスを浴びてしまい感染する飛沫感染、鼻水などで汚染されたタオルや食器などで感染する接触感染が中心です。乳幼児への予防はとても難しいですが、可能ならば飛沫感染対策としてマスク着用、タオルや食器は共用しないなどの点を心がけてください。
→ 排出されるウイスル量は発熱1~4日目に多く、排出は1~2週間続くと言われますが、解熱し咳や鼻汁が改善して元気になれば登園可能と考えてください。
【参考文献】
ヒト・メタニューモウイスル発見され12年が経過して
特定医療法人とこはる 東栄病院 小児科 菊田英明
ヒト・メタニューモウイルス ウイルス 第56巻 第2号 pp.173-182 2006
感染症today ヒトメタニューモウイルスの臨床的特徴と診断・治療
東栄病院 副院長 菊田英明